正しく知ろう『血抜き』のこと。ジビエの“レバー臭”は血抜きではなく、調理方法の問題です

シカの血抜き

 捕獲した獲物の血を抜く『血抜き』は、安全で衛生的なジビエを得るためにも重要な工程です。しかし、多くのハンターが口にするジビエの『レバー臭』と血抜きとの間には、実はほとんど関係性がなかったりします。今回は血抜きに関する正しい知識と、ジビエのレバー臭を出さないようにする調理法についてお話をします。

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血は美味しい食材でもある

 よく、食材の嫌な臭いを表現するときに「血なまぐさい」という言葉が使われます。確かに、人間の血って鉄っぽい変な臭いがありますよね。
 しかし“血”自体は決して臭いわけではありません。むしろ海外では料理に使われることも多い食材だったりします。

血の味は、ほとんど無味無臭

 血の料理として有名なのは、中国や台湾などの屋台料理で出てくる鴨血(ヤーチェ)でしょう。鴨血はアヒルの血をそのまま茹でて固めただけの食材ですが、まったく血生臭さはありません・・・というよりも、匂いも味もほとんどありません。食感とスープの味を楽しむ“ところてん”のような食材だったりします。

鹿血は牧草のような香りと甘味がある

 ヨーロッパやモンゴルなどでは、ブタの血を腸に詰めたブラッドソーセージがよく食べられています。ブタの血もカモの血と同じくほとんど無味無臭ですが、熱を加えるとケーキのスポンジのような、おもしろい食感になります。

「血が臭い」というのは、単なるイメージ

 さてこのように、血自体は臭くも不味くもありません。つまりベテランハンターがよくいう「血抜きができていないから肉がレバー臭くなる」というのは、実は間違いだったりします。
 しかし実際にジビエを料理してみるとレバー臭を感じることはあります。ではレバー臭の原因とはいったい何なのでしょうか?

レバー臭は血抜きではなく調理法にある

 鹿肉やカモ肉を食べたときに感じるレバー臭の原因は、ずばり酸化アラキドン酸という物質です。アラキドン酸とは、動物の筋肉中に一般的に含まれている脂肪酸の一種で、この物質自体に臭いはありません。
 しかし、このアラキドン酸が100℃以上に加熱されると、まわりの鉄分と結合して酸化アラキドン酸となり、あの嫌なレバー臭が発生します。

生レバは臭くないのに焼きレバが臭い理由と同じ

 この話を聞いて「信じられない!」と思われる方も多いと思いますが、ここで『生レバ』のことを思い出してください。
 今ではすっかり食べられるお店がなくなりましたが、生レバって全然レバー臭さが無いですよね?対して、焼き肉屋などで食べる『焼きレバー』や焼き鳥の『キモ』なんかは、レバーの臭さがします。ジビエのレバー臭さの原因も、まさにこれと同じ“熱”にあるのです。

アラキドン酸は筋肉に含まれるので、血を抜いても無駄

 ちなみに、アラキドン酸は血に多く含まれていますが、筋肉の細胞の中にも多く含まれています。よって、例え“一滴残らず”血を搾り出したとしても、筋肉中のアラキドン酸まで出すことはできません。

肉汁を絞り出した肉は、はたしてジビエの意味があるのか?

 ちなみにハンターの中には、肉を水に漬けて肉汁(ドリップ)を落とす人もいます。確かに、肉汁を抜けばアラキドン酸も少なくなるのでレバー臭も出にくくなるのですが・・・そんな搾りカスにしてまでジビエを食べる意味ってあるのでしょうか?
 ジビエの魅力は家畜にはない強いクセと旨味にあります。それを絞り出してスカスカにしてしまったら意味がありません。カレーなどの濃い味付けにしたらまだ良いのですが・・・そんなことをするぐらいな『安い鶏肉』でカレーを作った方が何十倍も美味しいですよ。

レバー臭さを出さずにジビエを料理するためには?

 ジビエをレバー臭さを出さないように調理するためには、先にも述べたように熱のかけすぎに注意することです。もちろん『生』だと食中毒のリスクが高くなるので、火の入れ方には工夫が必要です。下記ページにジビエの焼き方に関してご紹介していますので、ご興味があればチェックしてみてください。

 なお、もっと簡単に失敗しない方法に『低温調理』があります。こちらも是非、チェックしてみてください!

血抜きをする意味とは?

箱罠に入ったイノシシにとどめをさす

  ここまでお話したとおり、『血抜き』という行動と『血なまぐさい』というジビエの食味には大きな関係はないと述べました。では、血抜きは必要のない行為なのでしょうか?・・・いえ、そういうわけではありません。血抜きにはちゃんと、やるべき理由が存在します。

体温を素早く低下させる

 血抜きのメリットの1つが、屠体の体温を下げるためです。しとめた後の屠体は時間と共に腐敗が進んでいきます。このとき体温が高い状態が進むと微生物の増殖が加速し『腐敗臭』を出す原因になります。そこで血液を抜くことで、残体温をできるだけ素早く落とすようにします。

解体場所を汚さないようにするため

鹿肉の解体、モモ肉を外す

 解体作業では部分肉に分解するときに、太い血管を切断します。このとき体内に血が残っていると肉に付着してしまいます。血には臭いはあまりありませんが、血には非常に多くの栄養素が詰まっています。そのため血が付いた場所は非常に腐りやすくなり、同様に腐敗臭を出す原因になります。
 また動物の血には病原性のウイルスが含まれている危険性もあり、肉についた血が包丁や皿などにつき、それを口にするという二次感染のリスクも高まります。

確実なとどめを刺す

アナグマの血抜き

 血抜きには獲物への『とどめ』という理由もあります。特にタヌキやアナグマといった獣は偽死(死んだふり)をする習性があり、「しとめた」と思っても息を吹き返し大暴れすることがよくあります。これを防ぐために、血を抜いて「完全なるとどめを・・・刺す!」というわけです。WRYYYYY!

血抜き用ナイフは必ず1本持っておこう

 血抜きに使うナイフですが、これはハンターによって好みが違います。狩猟用ナイフの考察は以下のページでもご紹介しているので、気になる方はそちらもチェックしてください。

 初心者の方が持つ「初めの一本」でオススメなのは、モーラナイフのステンレスモデルでしょうか。ナイフは結構、山の中で落としたりするので、私はこれを愛用・・・もとい、いつも失くして同じ物を買っています。

まとめ

  1. ジビエの血なまぐささの原因は「血抜き」ではなく熱の入れ方にある
  2. 血抜きをする理由は、獲物の体温を素早く落とすこと
  3. 血抜きをするべき理由は「完全なるとどめ」をさすため
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この記事を書いた人

東雲 輝之のアバター 東雲 輝之 株式会社チカト商会代表取締役・ライター・副業猟師

当サイトの主宰。「狩猟の教科書シリーズ」(秀和システム)、「初めての狩猟」(山と渓谷社)など、主に狩猟やキャッチ&イートに関する記事を書いています。子育てにも奮闘中。

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